メッセージ
ベテランの西形節子先生が新人解説員を探していると伺い、会社に応募したのがきっかけです。早稲田大学で歌舞伎・文楽の研究をしましたが、家庭に入り子育てや主人の海外転勤などで二十年近いブランクがありました。面接で担当者から「お客様にイヤホンを聴いて記憶に残る『お土産』を差し上げて下さい」と言われたのが印象的です。
平成十五年十二月歌舞伎座の市川新之助(現海老蔵)の『実盛物語』が初イヤホン。今だに録音の雰囲気に慣れません。翌月の「セイセイセイ」でお客様から励ましのコメントを戴き、感極まって泣いてしまいました。
お客様の反応はとても嬉しいです。文楽『伊達娘恋緋鹿子』で「お七の人形がまるで涙をこぼしているようですね」とコメントしたら、アンケートで「このコメントで、それまでぼんやり観ていた物語に引き込まれて最後まで楽しめた」との反応にビックリしました。文楽『良弁杉由来』で良弁上人が涙をこぼす時、三味線の「チン」で、私は「ひと粒」、次の「チン」で「またひと粒、涙が落ちて参ります」とコメントしたら、場内で頷かれているお客様を見つけて、心の中で「ヤッターッ」と叫びました。歌舞伎『吉例寿曾我』の大薩摩の詞章 松は千歳を契り、竹は万代を契るとや を「『松』と『竹』で、松竹株式会社を指しております」とコメントしたら、場内に小さな笑いのさざ波が立ちました。
ただしいつもウケを狙う訳ではありません。外題の意味や初演の背景等にこだわりがあります。お客様の興味がどこにあるかを探りながら、正確な情報と楽しいコメントを心がけたいと思います。 |