『紅葉狩』
(もみじがり)
くまどりん
信州・戸隠山(とがくしやま)の鬼女伝説をえがいた舞踊劇で、季節は秋。舞台一面、色づいたモミジでまっ赤っ赤の一幕。
武将・平維茂(たいらのこれもち)が、家来を従がえて、山路ふかく紅葉見物に出かけたところ、すでにそこには真紅の振袖をまとった更科姫(さらしなひめ)と侍女たちが、宴をひらいています。  「いっしょに景色を楽しみましょうよ。お酒もありますわ。余興はやっぱり踊りがいいかしら…」  と、今でいう、アウトドア・合コンのはじまり。  まぁなんといい雰囲気…  と思ったら、そうすんなりとはいかないのがお芝居の常。
この美しいお姫さまの正体がなんと人喰い鬼。  姫に化けたってことはメス鬼でしょうか…。
酔いがまわってうとうとし始めた維茂たちを心配した山の神さまが、「このままじゃ喰われちゃうぞ!」と起こしに現れます。  これが中盤の見せ場。  杖と神さま自身の足拍子で、ひのき舞台をドンドン、トントン、鳴らすこと、鳴らすこと…。 ひょっとすると、これ、客席のいねむり解除の効き目があるのか、たいていのお客様は、ここで目覚めるとか…。
全山紅葉の中、姫が二枚扇で舞う華麗さ、山神の踏む足拍子のおもしろさ、ガラリと姿を変えた姫と維茂の立ち廻り(たちまわり)と、舞台は変化に富み、伴奏も「三方掛合(さんぽうかけあい)」、つまり重厚な義太夫(ぎだゆう)、しっとりした常磐津(ときわづ)、華やかな長唄(ながうた)の競演という贅沢さです。
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