やくざの三下奴(さんしたやっこ)の佐吉は、殺された親分、の孫である卯之吉(うのきち)に、お菓子の落雁(らくがん)のようなハクセッコウをお湯にといて、お乳代りに飲ますなど、懸命の子育て。 やがて親分の仇を討つという、さわやかな江戸っ子物語です。
群集の中から佐吉が登場する両国広小路、稲荷ずしや辻占売りの行く夜更けの法恩寺橋、川向こうの吉原からの騒ぎの三味線の聞える向島秋葉権現、朝桜の墨田堤など、江戸の詩情も豊かです。
佐吉を後援する相模屋政五郎は、土佐藩主山内容堂に愛された実在の大親分です。 歌舞伎の後援者でもあり、その娘は天才女形の三代目澤村田之助(さわむらたのすけ)の女房になっています。
佐吉はその親分の説得をうけて、死んでも手放すまいと思っていた我が子同然の卯之吉を親元に返す… その悲しい別離。
そして旅人姿(たびにんすがた)となってう舟唄の流れる墨堤向島の、満開の桜の下、江戸を去る。 なんともすがすがしい結末です。 |