『お祭り』といえば「待ってましたっ!」の掛け声。 鳶頭(とびがしら)がちょっと照れて「待っていたとはありがてぇ」と受けて返す・・・。 これが始まったのは、昭和三十一年(1956年)、十七代目中村勘三郎(勘九郎の父)の、大病による長期ブランクからの復帰公演でのことでした。
その年の七月の歌舞伎座 夜の部の初日。 『四谷怪談』の通し上演で、いっしょに出たのが勘三郎の『お祭り』。 『四谷怪談』がのびにのびて、夜の十一時をまわっても、まだ『お祭り』の幕があきません。 それでも、お客は、一人として家路につかない・・・ みんなが勘三郎を待っているんです。
こういう状況で、本当に、心の底からの「待ってましたっ!」に迎えられて、中村屋はカムバックを果たしました。 「ありがてぇ」も、だから、滂沱(ぼうだ)たる嬉し涙で、それこそ何を言っているかも聞きとれないような、しぼり出すような声だったとか。 それでもとっさに「待っていたとは・・・」と応えた勘三郎は、やはりすてきな役者ですね。
その勘三郎のご子息・勘九郎丈が2005年に、勘三郎の名前を襲名いたします。 |