京都の南郊外、八幡(やわた)の里に住む老婆・お幸(おこう)には、二人の息子がいます。 一人は、大阪に養子に出した実の子長五郎(ちょうごろう)。
一人は、亡夫の先妻の子、つまり継子(ままこ)の与兵衛(よへい)。
実子・長五郎は、今、人気実力ともに絶頂の相撲力士です。 しこ名は、濡髪(ぬれがみ)。 そして継子・与兵衛も亡き夫の跡をついで、郷代官(ごうだいかん)にとりたてられ、南方十次兵衛(なんぽうじゅうじべい)の名をさずかりました。
今、お幸は、継子与兵衛夫婦(嫁の名はお早)と三人でなかよく暮しております。 息子二人ともども出世して、こんな幸せな母親はめったにいない…はずでしたが、そこはお芝居。 やっかいな問題がおきます。
やむをえぬ理由で、人を殺してしまった濡髪長五郎が、実母に一目会いたくて、母を尋ねて来ます。 つまり、警察官の家に、義兄弟が犯罪者となって逃げこんできたのです。
母は実の子長五郎を助けたいが、継子に手柄を立てさせねば義母として失格です。 このため実子と継子の板ばさみとなって苦悩します。
母の事情を察した嫁もせいいっぱいの心遣いをします。
実子は継子に手柄をたてさせようとします。
継子は…
一夜明ければ近所の石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)の放生会(ほうじょうえ)という、日の出来事です。 放生会とは生き物を逃がしてやる仏教の行事です。
舞台は明り取りの引窓も効果的で、中秋の名月の秋の詩情も豊かに、人々の義理と情愛を美しく描き出す名作です。 |