谷崎潤一郎の監修、舟橋聖一の脚色で『源氏物語』が歌舞伎座に初登場したのは、昭和二十六年。
光君に扮した九世市川海老蔵(のちの十一世市川團十郎)。 まばゆいばかりの貴公子ぶりで人気は大ブレイク。 いわゆる「海老さま」伝説は、かくして誕生したのです。
『源氏物語』の歌舞伎化は、戦前にも、試みられたことがあります。 でも実現には至りませんでした。 貴族・王朝の世界を大々的に描くことが、天皇家に対する「不敬」で、かつ「戦時下にケシカラン」ということでしょう。
ときは流れ、平成の『源氏物語』。 光君に扮するのは、海老さまの孫・市川新之助です。 初演のとき海老蔵と競演した二世尾上松緑、七世尾上梅幸のそれぞれの孫、すなわち尾上辰之助と尾上菊之助も顔をそろえて、まさに新時代のヴァージョン。
しかも、台本のもとになるのは、昨今の『源氏物語』ブームの立役者、瀬戸内寂聴の口語訳本。 音楽には雅楽の東儀秀樹が参加した、話題いっぱいの舞台。 |