創演:元文(げんぶん)四年(1739)
その名の通り「景清物(かげきよもの)」のひとつ。
江ノ島の岩屋に閉じ込められた景清が牢を破って怒りの荒事。なんで怒ったか?
景清は、平家の侍大将で、平景清(たいらのかげきよ)です。とってもでかい男で、勇敢で、力持ちで、源平の争さで大活躍しまして、敵の源氏に最も恐れられた猛将です。屋島の合戦で、源氏の武将美尾谷十郎(みおのやのじゅうろう:三保谷・みほのや・ともいわれます)と一騎打ち、逃げる相手の兜(かぶと)の紐:錣(しころ)を引っつかんで放さず、結局、錣が切れて両者尻餅をついて、お互いの強さを誉め合って大笑いしたというエピソードが有名です。
これが「錣引(しころびき)」となって、『道行初音旅(みちゆきはつねのたび:義経千本桜の中の舞踊:通称「吉野山:よしのやま」)』で踊られます。
平家が源氏に滅ぼされて、景清は源氏に投降し、断食して果てたということです。その景清のタフガイ(古い言葉かな!)ぶりが、伝説となりました。戦場で負けても負けても、最後まであきらめることなく戦いつづけた人間、執念を燃やしつづけた人間、平家の武将としてのプライドを保ちつづけた人間…こりゃ人気の出るのも当然ですね。伝説は伝説を呼び、神様としてあがめられるほどになりました。
で、この『景清』では、なんで怒ったか?
平家が滅びて、景清は平家再興を企みつつ姿をくらまします。源氏の追及もきびしく、景清はあちこち転々とします。名古屋の熱田に身を隠したとき、宮司の娘と深い仲になりまして、これが妻の阿古屋(あこや)の知るところとなります。
嫉妬する阿古屋のグチを聞いた阿古屋の兄が源氏に訴え出たために、宮司と娘は拷問にあうはめになります。義理堅い景清は、名乗り出て牢に入れられます。許しを乞う阿古屋を許さぬ景清。阿古屋は自害します。景清は怒り憤り、牢を破って阿古屋の兄を殺し、再び牢に戻る…「オイオイ景清君、おまえの浮気が原因じゃんか」などと、あまり深く考えないでください。
「景清物」の歌舞伎十八番は、なぜかあまり上演されませんので、上演されましたら必見です。 |