『籠釣瓶花街酔醒』
(かごつるべさとのえいざめ)
くまどりん
花魁(おいらん)八ツ橋(やつはし)殺しの講談がモトになって出来た作品。
「かごつるべ」と名のついた村正の名刀で、あばた顔の次郎左衛門(じろざえもん)が一刀のもとに憎い女を切り捨てます。 自分自身の容姿に、負い目を持つ男、佐野(今の栃木県佐野市)の豪商・次郎左衛門が主人公。 この男、ひどいあばたづらなのです。 だから財力はあっても、「自分には縁のないところ」と、色街(いろまち)には足を運びませんでした。
江戸に出てきたある夜、「故郷へのみやげ話に」と、江戸一番のナイトスポット・吉原(よしわら)見物にでかけ、ぱったり出くわしたのが、今を全盛のおいらん・八ツ橋太夫の道中(練り歩きの行列)でした。 なんという美しさ!
たちまちのぼせあがって、次の日から廓(くるわ)に通いつめる次郎左衛門。
思いは通じて八ツ橋のなじみ客になれたのですが・・・
悲劇はすこしずつ、すこしずつ、忍び寄っていた・・・・
見どころは、吉原見物にでかけた時、人気ナンバーワンの八ツ橋の道中にぶつかり一目ボレする「見染め」の場面。 昔、吉原では遊女は揚屋(あげや)でお客と会うよう定められていました。 お客から呼ばれると置屋(おきや)から揚屋へ行列を作ったものです。 これが、いわゆるおいらん道中。 遊女の格によって上になればなるほどお供の数は多くなり、いわば大名行列の「吉原版」といったところ。 兵庫屋の八ツ橋といえば全盛のおいらん。 その美しさに加えて道中もきわだって豪華でした。 いなかから来て下男とウロウロ見物している次郎左衛門が魂を奪われてしまったのも無理もない話。
舞台は夜桜が咲き誇る仲の町(なかのちょう)が背景になっていて、その美しいこと! 歌舞伎屈指の愛憎ドラマ! 
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