兄、源頼朝から追われ、都落ちした義経。
すでに全国の関所に義経逮捕の命がくだっている中、一行は加賀の国(石川県)の安宅の関にさしかかります。
弁慶をはじめお供は東大寺再建の寄付を集める山伏、義経はその強力(荷物持ち)に、それぞれ変装して関所を通り抜けようとする。
ここからドラマは始まります。
白紙の勧進帳(寄付集めの趣意書)をまことしやかに読み上げたり、関守の富樫に見とがめられた義経を杖でさんざん打ちすえて、危機を救う弁慶の機転と勇気、義経と知りつつ見逃してやる富樫の情。
そして弁慶に感謝する義経の心情、落魄の貴公子ぶりなど、見どころが長唄の名曲にのって繰り広げられます。
能の様式を取り入れた荘重な雰囲気の中に緊張感やしみじみした情感が味わえます。
「歌舞伎十八番」の一つ。
歌舞伎の人気演目ベストワン。
お能にならって、松の背景画一枚だけのシンプルな舞台なので、季節がわかりづらいのですが、長唄の歌詞に、
「ときしも頃は如月の・・・」
とあるように、この物語は早春のできごと。
ひきしまった冷気の中での、あついドラマです。
勧進帳とは、寺社が寄付をつのる際に、お金の使用目的などをくわしく記した請願状のこと。
専門的な仏教用語もたくさん用いてあります。
そして義経一行が化けたのは、奈良の東大寺の派遣僧。
僧兵の反乱で焼け落ちたままになっている大仏を、再建するための資金や大仏の表面に貼る金箔を、砂金の豊富な東北・北陸地方で集める・・・という名目です。
東大寺といえば、当時の、国内宗教の頂点であり、最高学府であり、政治への影響力も強大な「聖地」でした。
その東大寺の勧進帳・・・現代でいえば、政府の予算案を記したもの、重要マル秘文書でしょう。
それを持ってもいないのに、そこの僧になりすます・・・まさに「一か八かの大作戦」に打ってでたとお考えください。
この「手に汗にぎる」極限状況が、お芝居として、盛り上がらぬわけがない! |