『熊谷陣屋』
(くまがいじんや)
くまどりん
本名題:『一谷嫩軍記』(いちのたにふたばぐんき)

この芝居は熊谷次郎直実が主君・義経の気持ちを察し、若い敵将、平敦盛の代わりに自分の息子を討つという悲劇です。
ヤマ場は、なんといっても首実検のくだり。
妻の相模は首になった我が子の姿にすっかり心が動転。
また敦盛の母はてっきり討死したと思っていた我が子が実は熊谷親子に助けられていたことを知るなど、舞台は事の意外な展開で、ますます緊張します。
熊谷はそれらの女たちを近くの桜の木の下にある立札で制し、義経に「御批判はいかに」と気持ちを求める。
ここは大向こうから声がかかり、まさに歌舞伎のクライマックス。
最後の見どころは僧の姿になった熊谷が「十六年は一昔、ァゝ夢だ、夢だ」となげく場面。
十六年間愛情を注いで育てた息子をわが手で殺しすべてが夢と化した悲しさをうたいます。
おくり三重≠ニいう哀切な三味線の音にのって旅立ってゆく姿は、忠義のみに生きる武士道の空しさを痛切に感じさせます。
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