『神霊矢口渡』
(しんれいやぐちのわたし)
くまどりん
舞台上手(かみて:客席から向かって右手)の床(ゆか)で竹本(たけもと)がナレーターをつとめる義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)。
そのほとんどが大坂(大阪の古い語)で書かれた作品ですが、『神霊矢口渡』のような例外もあります。
エレキテル(電気)の研究や、うなぎの蒲焼のPR(土用のうしの日というものを考え出した)の元祖という平賀源内(ひらがげんない)先生が作者。
肩書は一応「江戸の蘭学者」ですが、マルチタレントの教授ですな。
お話は、多摩川べりに展開する愛とスリルのドラマ。
矢口は今の東京都大田区の西のはずれ、東京と神奈川を分けへだてる川の渡し場。
新田義貞軍が足利尊氏軍に敗れます。
義貞の二人の息子も落ち延びてきます。
渡し場を守るのは強欲おやじ・頓兵衛(とんべい)という男。
二人の息子のうち、長男はかつて頓兵衛の渡し舟に乗って、溺死。
頓兵衛は褒美の金をたんまりともらいました。
今度は弟が女連れで落ち延びてきて、一夜の宿を求めます。
強欲おやじの頓兵衛には、お舟(おふね)という年頃の美しい娘がおりまして、一夜の宿を求める男に一目ぼれ。
お舟はその男が新田の落人だと知って、逃がし、自分がその部屋に。
寝静まった頃、闇討ちする頓兵衛、身代わりと知らずに我が娘を刺してしまいます。
すると、おやじ、手負いの娘に目もくれず、男をのがしてなるものかと一目散に追いかける!
このとき、頓兵衛は花道を引っ込んで行くわけですが、この走り方がグロテスク!
ここからが、刺されて瀕死の重傷の娘の大活躍。
このお芝居には「親子の義理」だの、「誰々、実は、なになに」式のトリックなどは少しもありません。
ストレートな感情に徹した父と娘の行動・・・江戸生まれの義太夫狂言の明快さをご堪能ください!
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