『象引』
(ぞうひき) 
くまどりん
天竺(インド)から朝廷におくられた巨象が、箱根山中で引綱をちぎって逃げ出し、江戸中を荒らしまわるという珍事が起きます。 関東守護職の豊島家へ大伴大臣褐麿がやってきて「大象を捕らえられないとは何事だ」と厳しく追及。 そのうえつけあがった大臣は当家の弥生姫を連れて行こうとします。 その時、“正義の味方”箕田源二猛(みたげんじたける)が現れ大臣と争いますが、弥生姫はどちらでも先に大象を退治したほうに身まかせると申し出ます。 所は半蔵門の前、大象を二人で引っ張り合う猛と大臣。さていかなる結末とあいなるでしょうか… 弱きを助け、強気をくじくという猛の大活躍。 単純な筋ながら当時としてはめずらしい象を登場させて、天衣無縫のメルヘンの世界が展開します。 象を引き合う二人が、蘇我入鹿と山上源内左衛門という設定のときもあります。 荒事の中には「引合事(ひきあいごと)」というジャンルがあります。 「象引」の他に「錣引(しころびき)」、「草摺引(くさずりびき)」や菅原伝授手習鑑の「車引(くるまびき)」などは今日でもよく上演されます。 この引合事というのは、わが国に古くからあった民俗信仰の引事の神事からきているといわれます。 その代表的なものは綱引です。 今では小学校の運動会でもあまりやらないそうですが、昔は村々から人々が出て、綱を引きあい勝ったほうがその年は豊作に恵まれるという風習がありました。
閉じる