戦後の流行歌に「死んだはずだよお富さん・・・」というのがありましたが、その歌の元になったのが、この『与話情浮名横櫛』です。 昔から大人気の演目です。 原作は三十場もある大長編。 そのなかの、もっとも楽しまれた部分が、『見染め』と『源氏店』。
『見染め』の舞台は、千葉県は木更津の浜辺。 江戸から木更津に来た伊豆屋の若旦那・与三郎(よさぶろう)は、土地の親分の妾(めかけ:愛人)になっている深川芸者・お富と出会います。
おたがい、一目ぼれ! この二人の出会いから見どころいっぱい!の場です。
密会を重ねる二人ですが、親分にバレます。 男はメッタ切りの半殺し、女は海の中へどぼん。 お互い、相手は死んだと思っています。 3年の歳月が流れて『源氏店』の場となるわけです。
十年以上前でしょうか、『与話情浮名横櫛』が、与三郎(片岡仁左衛門 当時片岡孝夫)、お富(坂東玉三郎)で出たときのこと。 序幕、木更津の「見染め」のおしまいで、浜づたいに立ち去っていくお富に、与三郎がいつまでも、「ぼぉーっ・・・」と見とれていると、
着ている羽織が、いつの間にか脱げおちて、足元で砂まぶれになっていても、与三郎はぜんぜん気付かない・・・という名場面、 この、つかの間の静寂に、ある日掛かった掛け声が「奥さまよりもきれいですか?」
観客が、誰も笑わなかったのも、すごい。 |