〈気持ちを新たにここから始まる「曽我狂言」〉
建久四年(1193)工藤祐経は源頼朝に重用され一瑯職に昇進した祝いの宴で、十八年前に土地の所有権争いが原因で殺害した河津三郎の遺児曽我十郎五郎兄弟と対面します。工藤は兄弟に五月の富士の巻狩の責任者の役目を終えたら二人に討たれようと約束します。
オールスターの顔触れです。沢山の出演者がいると「一体誰が善人か悪人か?」と迷いますね。こんな時には登場人物の顔や衣装の「色」に注目すると分かりやすいです。歌舞伎の決まり事で、顔が白 塗りの人物は「善人」、顔が「砥の粉」を塗る赤ッ面の人物は「悪人」とお考え下さい。
主人公の曽我兄弟の兄十郎は「和事」の白塗りで柔和な顔立ちで、弟五郎は白塗りの目元に「荒事」の赤い剥き身の隈取りがあり、怒りで目元が血走る 表情です。大磯の虎は兄十郎の恋人、化粧坂の少将は弟五郎の恋人なので善人の白塗り、小林舞鶴も曽我兄弟を応援する善人で白塗りです。一方敵の工藤佑経の関係者は梶原平三平次親子も後ろの並び大名も赤ッ面の悪人です。では工藤祐経はと云いますと、兄弟の敵であり悪を象徴する黒の着付けで昔は赤ッ 面の敵役でしたが、座頭が勤めるようになったので悪人ではなく兄弟を思いやる白塗りの心の広い人物にと役柄が変化しました。こういう例外もあるのですね。
江戸時代は初芝居が「曽我物」で大入りだとロングランとなり、三月は「対面」から始まる狂言立てでした。新しい歌舞伎座も昨年十二月に来場者数が百万人を突破して大入が続きます。再開場して間もなく一年。気持ちを新たにして始まる一幕です。 |