歌舞伎・文楽ミニ知識 - イヤホン解説余話

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「喜撰(きせん)」 シネマ歌舞伎

変化舞踊(へんげぶよう)
「喜撰」は天保2年(1831)江戸中村座で初演された変化舞踊『六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)』の一部分を成します。変化舞踊とは一人の踊り手が何役も踊り分けていく舞踊で、江戸時代後期、文化文政期(1804~1830年)頃に流行しました。『六歌仙…』は「遍照」「文屋」「業平」「喜撰」「黒主」の5つから成り、現在ではそれぞれが単独で上演されることもしばしばあります。

六歌仙

『六歌仙…』の内容は平安時代の6人の歌の名人(六歌仙)が登場し、そのうちの5人が、紅一点で絶世の美女の小野小町に言い寄り、拒絶されるというものですが、これは伝説を誇張したり、史実のパロディーとして描かれています。ただし、「喜撰」は町人の世界を舞台としているので、小野小町の代わりに、小町に見まがうばかりの美女、祇園の茶汲み女 お梶が登場し、小野小町に見立てられています。
パロディー好き
江戸時代の町人は言葉遊びやパロディーが好きだったようです。喜撰は平安時代初期の歌人にして、真言宗の僧で、後に宇治山に隠棲し、仙人になったと言われていて、小倉百人一首 8番には「わが庵(いお)は 都の巽(たつみ) しかぞすむ 世を宇治山と 人はいふなり」(意味: 私の仮住まいは都の東南(巽)にあり、その「巽」という字の通り、慎ましく暮らしている。世間の人はここを世を避けて住む山(宇治山)というらしい。)という喜撰の歌が残されています。
喜撰が言い寄る女を茶汲み女としたのも、茶の産地「宇治」からの連想と思われ、「喜撰」はこの歌から宇治茶の銘柄にもなり、茶の隠語でもあります。
舞踊「喜撰」の冒頭の詞章に「わが庵は 芝居の辰巳 常盤町(ときわちょう)」とあるのは、この歌をもじったもので、芝居(江戸中村座。「喜撰」の初演当時、堺町(現・東京都中央区日本橋人形町3丁目))の辰巳(南東の方角)の常盤町(芸者などで賑わっていた深川地区。現在の江東区常盤)に喜撰が住んでいると暗示しています。閑静な宇治山と賑やかな常盤町の対比に加えて、仙人とも言われた喜撰が女に言い寄るという、意外で、あべこべの趣向(パロディー)にも当時の観客はおかしみを感じたことでしょう。


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『小倉百人一首』菱川師宣画
(1680年本問屋 出版)より「喜撰法師」
 

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