歌舞伎・文楽ミニ知識 - イヤホン解説余話

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「輝虎配膳(てるとらはいぜん)」 京都南座 昼の部

まずは母の機嫌取り
長尾輝虎は、敵対する武田信玄お抱えの軍師、山本勘助を得んために、勘助の母の関心を引こうともくろむのですが・・・。小説や大河ドラマ「武田信玄」「風林火山」などでもおなじみの山本勘助にまつわるお話です。
一冊の書物だけに

勘助は高名なわりに、実態は謎に満ちていて、その事跡は「甲陽軍鑑(こうようぐんかん。信玄、勝頼親子を軸に、合戦の様子や武将の心構えなどを記す)」という書物、江戸時代のベストセラーにしかありません。
隻眼の名軍師
この書によれば、彼は明応2年(1493)三河の牛窪に生まれ、源助貞幸と名付けられたのを、12歳で他家の養子となり、勘助と改名。
成人後、今川義元に仕官を願ったものの、叶わず、やがて推挙を得て、信玄の元へ。

そこで、名軍師として築城、軍略の才知をもって大いに活躍。永禄4年(1561)、第四次の川中島合戦で、敵に策略を見破られ、討ち死にしたといいます。また彼は隻眼(せきがん、片目)で片足が不自由だったともいわれています。

息子の捏造
この「甲陽・・・」が基になって、彼を稀代の軍略家とするお芝居や講談が数々生まれたのですが・・・。

『山本勘助』(松本楓湖画、恵林寺蔵)
実はこの書は、出来事の日付に矛盾が多く、大部分は勘助の子の作り話らしい、といった理由から、史料の価値はなく、「名軍師、勘助は架空」とする説が、明治の中頃から、有力でした。

歴史的お宝で
昭和44年、当時の大河ドラマ「天と地と」を見たある視聴者が“ 山本菅助 ”と記された家伝の書状を「もしかしたら」と鑑定に出したそうです。これが信玄が北信濃の市河藤若へ宛てた正真正銘の手紙で、菅助は書状を届けた使者と判明。歴史的なお宝だったわけです。
こうして菅助=勘助は実在し、「甲陽・・・」並の人物と言えないまでも、信玄の使者を務めるほどの家来であったろうことがわかったといいます。
ヤマカンの語源?

よく、当てずっぽうなことを「やまかん」といいますが、これは山本勘助を略したという説もあるそうです。名軍師といえども、策略の成功を運に任せたこともあったからでしょうか。この説の通りならフィクションの勘助はこんな言葉も生んだということですね。
 

「平家女護島(へいけにょごのしま)鬼界が島の段」 国立小劇場 文楽鑑賞教室

近、中、遠3ランク
主人公、俊寛は平家打倒を企て、平清盛により、鬼界ヶ島(きかいがしま、現・鹿児島県硫黄島)へ流されました。
日本の「流罪」は古代、神の怒りに触れた者を島に捨て殺しにしたのが始まりとか。
奈良、平安の頃は、唐の制度にならい、罪の重さに応じて流刑地を遠ざける「近流(きんる)=備前、安芸(現・広島県西部)」、
「中流(ちゅうる)=信濃、伊予」、「遠流(おんる)=安房、伊豆、常陸、佐渡、隠岐、土佐」の3ランクがあったとされます。ただ時の為政者の気分次第でさらに遠くされることもあったよう。俊寛を鬼界ヶ島まで流した清盛の憎しみはさぞ強かったのでしょう。
命が縮む流人暮らし
流刑者は必ず妻を同行させられ(他の家族は希望すれば可)、流刑地の戸籍へ。つまり一生帰れず、たいてい2年ほどで亡くなったといいます。「老後は田舎でスローライフ」が流行る昨今とは想像を絶する環境の違いだったということでしょう。

後に例外的に帰還を許される「非常赦(ひじょうしゃ)」が施されるようになったといい、俊寛に連座した平康頼、藤原成経が帰れたのはその一例です。

佐渡金山は地獄
江戸時代は、大坂からは薩摩、隠岐、天草あたり、江戸からは伊豆七島がおもな流刑地だったとか。また戸籍から外された無宿者(むしゅくもの)が罪を犯すと、佐渡送りになり、佐渡金山の湧き水を汲み出す水替え人足として強制労働。これは本当に悲惨だったということです。

明治になると蝦夷(えぞ、北海道)へ流され、監獄へ入れられたようですが、新しい刑法が制定された明治41年(1908年)、流罪は廃止されました。
流罪は世界基準

いわゆる文化人では、世阿弥が佐渡へ(理由は不明)、画家、英一蝶(はなぶさいっちょう)は時の将軍と愛人のツーショットを描いて風刺した咎で八丈島(三宅島とも)へ流されたといいます。
菅原道真、崇徳(すとく)上皇、源為朝、江島生島ら流罪にされた人物のお芝居はいろいろあるなか、「俊寛」は海外でも上演され、大いに共感を呼びました。ナポレオンがセントヘレナ島へ流された例を引くまでもなく、流罪はグローバルな背景だからでしょう。


 

鹿児島市中町にある 「俊寛之碑」
(鹿児島市中町 俊寛らはこの地から
鬼界ヶ島へ向かって出港した)

解説余話バックナンバー

 

2019年11月 「小笠原騒動」平成中村座・「心中天網島」国立文楽劇場

2019年10月 「碁太平記白石噺」御園座

2019年09月 「東海道四谷怪談」京都南座

2019年08月 「伽羅先代萩」歌舞伎座・「日高川入相花王」大阪国立文楽劇場

2019年07月 「高時」歌舞伎座・「日高川入相花王」大阪国立文楽劇場
2019年06月 「神霊矢口渡」国立劇場・「五条橋」国立文楽劇場
2019年05月 「曽我綉俠御所染」歌舞伎座・「妹背山婦女庭訓」国立小劇場

2019年04月 「奴道成寺」巡業中央コース・「仮名手本忠臣蔵」国立文楽劇場

2019年03月 「積恋雪関扉」国立小劇場

2019年02月 「暗闇の丑松」 歌舞伎座・「壇浦兜軍記」 国立小劇場

2019年01月 「廓文章」歌舞伎座・「二人禿」国立文楽劇場

2018年12月 「二人藤娘」歌舞伎座・「鎌倉三代記」国立小劇場