歌舞伎・文楽ミニ知識 - イヤホン解説余話

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「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」 歌舞伎座 第一部

お家騒動をモデルに
江戸時代前期、奥州の大名、伊達家でお家騒動が起き、人々の注目を浴びました。仙台藩3代藩主伊達綱宗が放蕩(ほうとう)に耽ったため、藩主の座を引退させられ、その後、藩内は伊達安芸(あき)派と伊達兵部(ひょうぶ)派に分かれて争いました。やがて伊達安芸、原田甲斐(兵部派の家老)らが幕府に召し出され、大老の裁きで原田家や兵部派は処罰されるも、伊達家は存続。
この事件は歌舞伎にも取り上げられ、この『伽羅…』はその代表作で、当時の例にもれず、江戸幕府の検閲をはばかって、時代を室町時代後期に移して書かれました。
妖術使い、仁木弾正
お芝居には御家乗っ取りをたくらむ一味の黒幕、仁木弾正(にっきだんじょう)という印象的な人物(モデルは原田甲斐とされる)が登場。彼は妖術を使ってネズミに変身したり、宙を歩いて去って行ったりするなんとも摩訶不思議な人物です。
さて、その仁木が巻物を口にくわえ、印を結ぶ姿は忍者を連想させますが…。
忍者の起源
日本では戦国時代に敵の情勢を探ったりするため、各地で忍者が活躍していました。その忍者や忍術の起源には

  1. 不老不死の薬を求めて日本にたどり着いた徐福(じょふく、始皇帝に仕えて医術や呪術を行った)がもたらした。
兵法書「孫子」に忍術が載っているところから見て、古代の中国で発祥した。
高皇産霊尊(たかみむすびのみこと)が無名雉(ななしきじ)に命じ、最近連絡のない相手の様子を探らせたといった話が「古事記」や「日本書紀」にあるので、日本の神話時代に生まれた。
聖徳太子の時代に、来日した百済の僧が伝えた遁甲術(とんこうじゅつ、身を隠したり、敵から逃走したりする術)が始まり。

『見立十二支の子』より五代目松本幸四郎の仁木彈正:
一勇齊國芳 画

 

など様々な説がありますが、はっきりとはわかりません。戦国時代の忍者がこれらを直接の祖先としてはいなくても、これらから学び、間接的に影響を受けたことはあるでしょう。
忍者の任務
忍者の任務は大きく分けて次の4つがあり、戦国大名などがしばしば彼らを使ったといいます。
①諜報(ちょうほう)…敵の情報を探るスパイ活動。
②防諜(ぼうちょう)…ニセ情報を流すなどして、敵のスパイから自分達(の秘密)を守る。
③謀略(ぼうりゃく)…敵の武将を寝返らせるなどの工作。

④不正規戦(ふせいきせん)…山岳ゲリラ戦などで身軽さを生かして活動。

忍者=妖術使い?
忍者は、現代の特殊部隊やレスキュー隊のように、人並はずれた能力や技術をもっていたのでしょう。一方の妖術や妖術使いは想像の産物であり、忍術と妖術は似て非なるものと言えます。ただ忍者は、任務が任務だけに、その実態や活動をおおやけにすることはなかった。それゆえ彼らの真の姿が後世に伝わらず、かえって人々の興味をそそり、神秘性がふくらんでいった。ひいては、人々はあたかも忍術=妖術、忍者=妖術使いと捉えるようになったのではないでしょうか。
江戸の昔、このお芝居の仁木、『児雷也豪傑譚話(じらいやごうけつものがたり)』の児雷也、『曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)』の星影土右衛門といった妖術使いに観客はワクワクしたことでしょうが、今は、外国でも忍者の漫画やアニメがもてはやされています。

 
「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」 大阪国立文楽劇場

安珍・清姫伝説
安珍清姫の伝説については、多少相違はあるものの、説話として平安時代の『大日本国法華験記』(『法華験記』)、『今昔物語集』に現れます。
醍醐天皇の御代、延長6年(928年)夏の頃、奥州白河より熊野詣でに来た僧 安珍が紀伊国牟婁郡(現在の和歌山県田辺市中辺路)真砂の庄司清次の家に一夜の宿を借りた。清次の娘(清姫)は安珍に一目惚れし、夜這いをかけて迫る。安珍は参拝前に迫られても困る、帰りには立ち寄ると約束したものの、参拝後は立ち寄らずに行ってしまった。
騙されたことを知った清姫は怒って、安珍を追います。安珍は追手を渡さないよう、渡し守に頼んでいたものの、清姫は遂に蛇身に化けて川を渡るのでした。
今回、上演されるのはこの、清姫が日高川を渡るあたりのくだり。清姫は、蛇に化ける時に一瞬で形相が変わる、ガブという特殊な首(かしら)が用いられますので、その一瞬をお見逃しなく。
伝説の続き

安珍は日高川を渡り道成寺に逃げ込み、梵鐘の中に隠れますが、蛇に化けた清姫は鐘に巻き付き、炎を吐きかけ、安珍は鐘の中で焼き殺された。

道成寺ではお坊さんが、この伝説を土佐光重が描いたといわれる『道成寺縁起絵巻』を絵説きしてくれます。日本で現在、絵解き説法をしてくれるのは道成寺のみですので、訪ねた折はぜひお聴きください。

伝説の後日譚
安珍・清姫伝説は能『道成寺』や歌舞伎舞踊『京鹿子娘道成寺』の題材にもなりましたが、これらは、安珍・清姫伝説の後日譚(ごじつたん、後のお話)、鐘が再建されると、清姫の怨霊が現われ、再び鐘を落としてしまうお話です。

鳥山石燕画『今昔百鬼拾遺』より「道成寺鐘」
 
『道成寺縁起絵巻』や絵解き説法の様子も載った
道成寺フレーム切手(2008年発行)

解説余話バックナンバー

 

2019年07月 「高時」歌舞伎座・「日高川入相花王」大阪国立文楽劇場
2019年06月 「神霊矢口渡」国立劇場・「五条橋」国立文楽劇場
2019年05月 「曽我綉俠御所染」歌舞伎座・「妹背山婦女庭訓」国立小劇場

2019年04月 「奴道成寺」巡業中央コース・「仮名手本忠臣蔵」国立文楽劇場

2019年03月 「積恋雪関扉」国立小劇場

2019年02月 「暗闇の丑松」 歌舞伎座・「壇浦兜軍記」 国立小劇場

2019年01月 「廓文章」歌舞伎座・「二人禿」国立文楽劇場

2018年12月 「二人藤娘」歌舞伎座・「鎌倉三代記」国立小劇場
2018年11月 「実盛物語」平成中村座・「鶊山姫捨松」 大阪国立文楽劇場
2018年10月 「華果西遊記」大阪松竹座
2018年09月 「金閣寺」歌舞伎座 ・「増補忠臣蔵」国立小劇場

2018年08月 「盟三五大切」歌舞伎座 ・「日本振袖始」国立文楽劇場