「岡崎」の段 みどころききどころ

伊賀越レベル 
★★★
くまどりん
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『伊賀越道中双六』のクライマックスは大曲「岡崎」の場面。
今回(2013年)11月国立大劇場の歌舞伎では上演のない場面です。ぜひ文楽での上演を、お見逃しなく!
雪の降る冷たい情景の中、繰り広げられる親子、主従の悲しいドラマに、誰もが胸を打たれるはず。今回はそんな「岡崎」の場面のみどころききどころを、名人の芸談からご紹介します!豊竹古靱太夫(のちの豊竹山城少掾、1878−1967)のお話です。


東海道五十三次 「岡崎」

@「然らば、御免」
関所破りで捕まりそうになった政右衛門を幸兵衛が助け、家に招き入れるとき、政右衛門が発する言葉です。
豊竹古靱太夫談:
「即ちこの場の政右衛門は全然本名を明かしていない。ただ単なる行きずりの旅人に偽装しているわけですが、それでも流石に人品は隠しおおせない。この『然らば御免』という僅か一言の挨拶のうちに天下無双の剣士唐木政右衛門としての風俗や人態が自から滲み出る、という解釈です。今後、皆さんも、「岡崎」ではこの『然らば、御免』を特に注意して聴いて頂きたいものです」

皆様、「然らば、御免」をよーく聴いてくださいね!

A提灯の親爺
政右衛門を追って、生まれたばかりの子とともに巡礼姿で旅をするお谷が、幸兵衛の家の外で苦しんでいるときに、提灯を持った夜回りのおじさんが登場します。
豊竹古靱太夫談:
「ホンのちょっと出て来て直ぐ引込む端役なのですが、これをうまく語らないと折角の「岡崎」が一段死んでしまいます。この点景人物を語り生かせることによって、凍てついた雪の夜の物さびしい情景がヒシヒシと観客の胸に迫って来るからです」

脇役にも重要な存在感が。提灯のおじさんに注目です!

B眠いくらいがよい?糸繰り歌
幸兵衛の娘は股五郎の許嫁。政右衛門の幼名しか知らない幸兵衛は、政右衛門に股五郎の助太刀を頼み、少しでも敵の情報をほしい政右衛門はそれを引き受けます。 幸兵衛がひっこみ、幸兵衛の妻が糸繰りをはじめ、政右衛門はたばこの葉を刻みます。しんしんと雪が降る冬の夜。とても静かで、情緒のある場面です。あまりゆったりとしていて、うっかりうとうと…となりそうですが、この場面、うとうとするくらいがいいのだとか。
豊竹古靱太夫談:
「昔から、老婆が糸を繰りながら『来いとゆたとて行かれう道か、道は四十五里波の上…』と糸繰唄を口ずさむあたりは、聴衆にコクリコクリと居眠りをさせねばならない。客を居眠らせるほうがよい「岡崎」だといわれている程です。静かな雪の夜の情景がシンミリと描写されればなりません」

なるほど!でもそのまま寝続けないようにご注意!


いかがでしょうか?
「岡崎」ご観劇の際は、上記の3つの見どころを意識してみてくださいね!

芸談の出典:
「山口廣一「文楽鑑賞」の内 豊竹古靱太夫(山城少掾)述」(国立劇場芸能調査室編『伊賀越道中双六上演資料集』1967年3月発行)

 
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