十兵衛の東西
沼津の宿を通りかかった呉服屋の十兵衛。実は、敵討ちの標的となっている沢井股五郎に仕えています。ひょんなことから平作じいさんに荷物を運んでもらうことになりましたが、それが悲しいドラマの発端となるのです。ところでこの十兵衛の衣装と役作り、東西で少々、違いがあります。大きな違いはまず「笠」。上方・鴈治郎系統の十兵衛は、朝顔型の道中笠を持ちます。対して、江戸・吉右衛門系統の十兵衛は、三角形の菅笠。次に「かっぱ」。上方・鴈治郎系統は、裾の長いはっぴのような道中着を着込みますが、江戸・吉右衛門系統は、廻し合羽をマントのように羽織ります。そして役作り。上方・鴈治郎系統では、「二枚目半」。綺麗なお米に一目ぼれしてでれでれしたり、平作じいさんとコントのようなやりとりをしたり、柔らか味のある人物造詣です。一方、江戸・吉右衛門系統では、「辛抱立役」という役柄で、上方の演出にくらべると、思慮深く実直な雰囲気を強く出します。原作、文楽の十兵衛に近づいたキャラクター設定です。演じる役者によっては、両方の型をミックスすることも。ご覧の際は東西の違いに注目してみましょう。
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