順わぬ者の怨念
また古代の日本では、天皇に従わない土着の民、すなわち体制に順(まつろ)わず(従わず)、抵抗する人々を、体制側は土蜘蛛、都知久母(つちぐも)、鬼などと呼んで蔑んだのだそうです。なかでも、奈良県の葛城山(かつらぎやま)にいた土蜘蛛族は特に有名だったようで、この地の葛城一言主(ひとことぬし)神社には「土蜘蛛塚」という小さな塚が今もあります。これは神武天皇が彼らを捕え、その怨念が蘇えらぬよう、頭、胴、足を別々に埋めた跡だということです。
『土蜘』の主人公は、自分はその葛城山に古くから棲んでいたと語ります。彼は都の華やかな宮廷生活の裏に広がる順わぬ人々の深い怨念の闇を象徴しているのかもしれません。
クモは益虫
今ではクモの研究が進み、その習性を利用した科学的実験が行われているといいますし、害虫を駆除するために飼うこともあるそうです。
都会ではクモを目にすることなど、ほとんどない昨今ですが、『土蜘』の根底に流れる怪異な姿にたくした古い言い伝えの心は残したいものです。
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