忠信の正体は
やがて静は義経が吉野に潜んでいるとの噂をたよりに、初音の鼓を携え、忠信を供に吉野へ向かいます。その道中の様子を描いたのが『道行初音旅(みちゆきはつねのたび)』で、「初音」はもちろん、くだんの鼓を指します。そして静と義経は吉野の河連法眼(かわつらほうげん)の館で晴れて再会。さらにここで忠信の意外な正体が明かされます。
初音の鼓には齢(よわい)千年を経た夫婦の狐の皮がはられていて、実は忠信は…。
落語版忠信
文楽や歌舞伎の人気演目や場面はパロディー化され、落語のネタにもされていて、『義経…』のこの段のお話をひねった上方落語に「猫の忠信」があります。こちらに出てくるのは鼓ではなく“ 猫の皮をはった三味線 ”です。まぁ、三味線に猫の皮をはるのは珍しくもないのですが、このお話の三味線はネズミ退治のために特別にあつらえられたという設定。
静が似合う
三味線にされた親を慕って、子猫が持ち主の浄瑠璃(じょうるり、語り芸の一種)の女師匠、お静の前に人の姿で現れる。やがて正体がばれるが、折しも師匠宅では浄瑠璃の会が催されることになっていて、演し物は「義経千本桜」。集まった面々は、ちょうど狐の忠信のように子猫が現れるとは幸先良し、と大喜び。
一同から「師匠は名もお静だから、静の役を」と勧められたお静が「こんなお多福には似合わないヮ」と謙遜すると、子猫が顔を上げて“ ニァウ ”。 |