くまどりん イヤホン解説余話
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「華果西遊記(かかさいゆうき)」 大阪松竹座

『華果…』は中国の一大伝奇小説「西遊記」の後半の2つのエピソードを組み合わせて、歌舞伎化したもの。「西遊記」は唐の時代にインドへ渡り仏教の経典を持ち帰った玄奘三蔵の旅の記録を記した「大唐西域記」を元に、仙界や天界に、神や龍や妖怪や仙人など、虚実が入り乱れる冒険物語で、日本でも様々にアレンジされ、よく知られています。
原作と比較
『華果…』では西梁国(さいりょうこく)、子母泉(しぼせん)の水を飲んだ猪八戒が妊娠し、孫悟空が猪八戒の腹を割いて子種を取り出し、縫い合わせるという場面があります。ここは原作の「西遊記」では猪八戒に加え、三蔵法師も同国、子母河の水を飲み、妊娠してしまうものの、孫悟空が南に3千里離れた山中の破児洞にある落胎泉の水を取ってきて飲ませ、事なきを得るとなっています。
その後、原作では火焔山(かえんざん)の猛火を鎮めるために芭蕉扇を手に入れる冒険などのあと、一行は盤絲嶺(ばんしれい)のふもとの盤絲洞に住む7人の妖女との戦いになります。7人の妖女は盤絲洞から3里の所にある濯垢泉(たくこうせん)で日に3度湯浴みをします。孫悟空はしっぽの毛を70本抜いて息を吹きかけて70人の悟空に変化させ、正体を現し蜘蛛の精となった7人の妖女と戦います。
西遊記と数字
このように見てくると「西遊記」には数字が沢山出てくることがわかります。
中国では古代から陰陽道の考え方により、奇数は生を表す陽数で、めでたい数とされ、中でも1桁の奇数で最大の9は大変めでたいとされました。上で見たように3、7はよく出てきます。


孫悟空が師匠の須菩提祖師(しゅぼだいそし)から教わった変化の術の数は72。「これは地上の悪神の数」と祖師は言っています。72=9×8
悟空の乗り物、觔斗雲(きんとうん)は10万8千里をひとっ飛び。108000=108×1000 108は仏教では煩悩の数とされていて、鐘の表面の突起の数、数珠の玉の数も108です。日本では除夜の鐘は108回撞きます。 ただし108=12+24+72(月の数+二十四節季の数+七十二候の数)=4×9+8×9(四苦八苦と掛けて)は後から考えられたことといいます。
悟空が海底の龍宮に行って手に入れた如意金箍棒(にょいきんこぼう:意のままに大きさを変えられ、両端に金の箍(たが、輪)がはめられた鉄製の棒)は重さ13500斤(=8100kg)。13500=9×1500

悟空が如意金箍棒を手に入れて花果山に戻ると72の山の洞に立てこもる妖怪王が彼の面前に平伏し、恭順の意を表します。 72=9×8

悟空は天上を騒がせたため、玉帝に死刑を宣告され、八卦炉(はっけろ)といって、外観が八角形で、内部が乾(けん、天)・坎(かん、水)・艮(こん、山)・震(しん、雷)・巽(そん、風)・離(り、火)・坤(こん、地)・兌(だ、沢)の8つに区画されている炉で49日間焼かれますが、灰になりません(49=7×7は仏教で死者の魂が地上に留まるとされる日数)。八卦は古代中国に伝わる易における8つの基本図像で、周王朝時代(紀元前1046~紀元前771年)に成立した「周易」という書物には「易に太極(万物の根元)あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。八卦は吉凶を定め、吉凶は大業を生ず。」と天地万物の生成論が書かれていて、後に陰陽思想に取り入れられ、両儀=陰陽とされます。


玉帝
は今日まで1750劫(ごう)(1劫=129600年)ご修行になった。 1750=5×35×10 129600=108×12×100  35は仏教の教祖、ゴータマ・シッダールタ(釈迦牟尼(しゃかむに))が悟りを開いた年令。 108=9×12は仏教では煩悩の数 12は1年の月の数で、陰陽思想に関係あり。
悟空は五行山(ごぎょうさん:如来が自分の手の5本の指を金・木・水・火・土の宇宙の五元素(=五行)に変え、それがそのまま一連の山となったもの。)の下に500年の禁固に処されます。
三蔵法師は旅に出る前に如来から「緊箍児」「禁箍児」「金箍児」(いずれも「きんこじ」と読む)という3つの箍と九環の錫杖(しゃくじょう、修行僧が持つ杖)をもらいます。

このように「西遊記」には陰陽思想や仏教に関わる、意味ありげな数字が沢山出てきます。皆さんもそれらを探して、その意味を考えてみると面白いかもしれません。
八卦乂と太極
(中央が太極。三乂(3本の棒)で
構成される8種類の記号が八卦)
 
 
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