『葛の葉』
(くずのは)
くまどりん
『葛の葉子別れ』(くずのはこわかれ)
本名題:『芦屋道満大内鑑』(あしやどうまんおおうちかがみ)

根を乾燥させればカゼに効く葛根湯(かっこんとう)。 葉を煎じるとしっぷ薬。 くず粉は和菓子づくりに大活躍。 葛は、とても役に立つ植物です。 ところが、「葛の葉は、おもては緑あざやかなのに、うらは灰色にくすんでいる」という、見た目の感じだけで、和歌の世界で、「葛の葉」といえば、「うらおもてがはっきりしていること」とか「うらみ」を指す決まりに、いつしか定まってしまいました。 動物についてもわれわれは、「キツネが化かす」「猿知恵」「犬喰い」「猫かわいがり」・・・・とワルや下劣なふるまいのたとえにし放題。 そういう人間の身勝手さ、つまり「動植物よりも人間はすぐれている」という一方的な考えを、たしなめるようなお芝居です。 ヒロインの葛の葉は、もとは、悪党のしかけたワナに捕まった、雌ギツネでした。 それをワナから助け出してくれた男が、安倍保名(あべのやすな)です。 ところが保名は、「余計なことをしやがって」と、悪党にいためつけられます。 そうでなくても彼は、恋人を亡くし、心うつろの毎日をすごしていたのです。 そこでキツネは、恋人の妹・葛の葉姫に化けて、保名の介抱に駆け寄ります。 助けてもらった恩返しです。 なぜ妹に化けたか・・・・・恋人の死後で「おもざしが似ているから、妹でもよい」と、保名と葛の葉姫との結婚が内定する・・・・・という原作の流れです。 なんという安易さかとあきれてしまうけれど… それはそれとして… それをこのキツネは「わたしがうり二つに化けて、そばにいることで、彼の回復が早まれば…」と、プラス思考に転化実行したわけです。 「人を化かす」だの「うらおもてがある」だのは、誤解もいいところ。 このやさしさが、保名にも伝わり、ふたりは結ばれました。 男の子もひとりもうけたのですが、 結局は、正体がキツネだとバレてしまい、葛の葉は、愛する夫と坊やと別れて、さみしく山へ帰っていく・・・

参照:⇒『保名』(やすな)へ
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